e楽器屋.comが取材した楽器店・インタビュー特集(全36回・2015年3月〜2019年12月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

楽器屋探索ディープレポート Vol.3

三味線 亀屋邦楽器

三味線 亀屋邦楽器
亀屋邦楽器について
四代続く由緒ある邦楽器の名店。明確な記録はないので四代とされているが、その歴史は更に古く江戸時代まで遡るという。当時芸者さんが多くいた東海道(品川区)で本家を構える。現代表取締役の芝﨑勇生さんの父、勇二さんの結婚を期に独立。昭和42年、世田谷は豪徳寺にて店を開く。三味線屋が減りゆく昨今、それでも亀屋には数多くのプロらが来店し、その高い職人技が随所に伺える。日本の伝統工芸を支える貴重なお店である。(※2019年1月豪徳寺から経堂に移転)
 
亀屋邦楽器 店舗情報
亀屋邦楽器 公式サイト / BLOG
東京都世田谷区宮坂3-12-11
有限会社 亀屋邦楽器
お問い合わせ:03-3429-8389
営業時間:9:00〜19:00 日曜休日
亀屋邦楽器

楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 三味線亀屋 編

このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

亀屋邦楽器 代表取締役 芝﨑勇生氏

豪徳寺は亀屋邦楽器さんにお伺いしました。本日はよろしくお願いします。代々三味線屋だとお聞きしました。

勇生さん職人の家系なので明確な記録はありませんが、私の曽祖父からは確実に三味線屋でした。恐らくは江戸時代からやっていたはずです。家族全員でやっています。父と母と私と嫁さんと、あとは従業員ですね。全員職人で、女将さんが二人いる感じです。

邦楽器は家系で継承していくものなのですか?

勇生さん多くはそうですが、結局は技術のことですから、自分の子供だからと言って高い技術を持っているとは限らない。何代も技術が続くことも難しいですから、継承していく店もなかなか少なくはなりますね。

亀屋のお子さんは継ぐのでしょうか?

勇生さんウチは娘ばっかりでして…、女の子が継いではいけないという決まりはないのですが、今までは女の子には仕事を教えないって風潮はありました。あくまで習慣として女の子には教えてこなかったということでしょう。

今はお客さんの考えにも変化がありそうですね。

勇生さん今は少子化ですし、少しずつ変わってきてるんじゃないかな。今でも、一部には女性の職人さんもいますし。

三味線はお店によって音が違うとお聞きしたので、女性が作る音も、また新しい価値観を生みそうですね。

勇生さんそう思います。実際、音は作る人間によって変わりますから。私と父でも違ってきます。ですから同じ亀屋でも、ずっと父を指名してくるお客様もいらっしゃいます。

邦楽器はカスタマイズ感の強い楽器なんですね。

勇生さん洋楽器の事は詳しくはわかりませんが、三味線などは、一人の人間が一つの楽器に関わる工程が長いから個性が出やすいのかな。メーカーの音というより、職人さんの音になるんだと思います。

確かに洋楽器はブランドやメーカーから音をイメージします。

勇生さんうちにも『亀屋の音』というのはありますが、その中でも「親父さんの音は…、息子さんの音は…」と言われたりしますからね。

勇二さん(勇生さんの父・東京マイスター/東京都優秀技能者 芝﨑勇二さん)日本にも洋楽器の職人さんはいるけど、メーカーさんだと大量生産のシステムだから、職人としてやりたい人は、だいたい個人でやってるよ。

勇生さんギターなんかも個人で作ってる人はいますよね。ただ、今は、邦楽器は洋楽器より規模が小さいから、関わり方も密なんじゃないかな。

三味線の製作にあたり具体的な製造レシピなどはあるのでしょうか?

勇生さん寸法というのがあります。三味線というのはジャンルで寸法が決まっています。大きく三つに分けると、『細棹』、『中棹』、『太棹』に分けられます。津軽三味線は『太棹』、芸者さんの唄う小唄や民謡などは『中棹』、歌舞伎の長唄などは『細棹』になります。それぞれ音楽が違いますからね。

明確に区別されているとは知りませんでした。

勇生さん津軽三味線は青森の民謡から始まってますし、長唄は江戸のものだから粋に作るし…、同じ三味線でも、地域性によって全然違うものになるんです。

勇二さんジャンルによって求める音が違うんだよ。それに合わせて我々は皮の張り方など作り方を変えていく。

さらには個人個人に合わせた調整などもあるのでしょうか?

勇生さんこの三つの寸法があって、そこから個人に合わせて微調整していきます。男性だったら少し太めにしたり、逆に女性なら細くしたり、また、プロの方には固い木で作って、使い減りしないようにします。

耐久性を高めるんですね。

勇生さん固い木の方が音も良いですからね。ただ、あまり固い木で作ると、アマチュアの女性の方には重すぎたりもするので、ほどほどの重さの木で、木目の綺麗なものを使用したりします。

オーダーメイドと考えていいですね。

勇生さんまさしく。背広もそうだけど、吊るしの背広もあれば、オーダーメイドの背広もある。オーダーメイドならピタッと決まるじゃないですか? だから、良いモノはオーダーメイドで作ったほうが良いんです。我々は材料(原木)から作りますから。

木から作るという事ですか?

勇生さん100万円クラスの三味線から良いものはそうですね。原木から相談させてもらいます。

途方もない作業ですが、夢のようなオーダーメイドですね。

勇生さん例えば棹の頭の部分だったら、最初はこの状態です。

ギターでいうヘッドの部分…、すごく重い!

勇生さんこれは水に沈みますよ(笑)。紅木というインドの木です。固い木じゃないと棹が曲がってしまうから、こういう木でないといけない。フレットというものがないから一本の木で作るんです。

この状態のものを、手作りでここまで美しく仕上げるなんて…。

勇二さんその人によって合わせて作る必要があるから、この状態から作るんだよ。

勇生さん砥石で磨いていくんです。

スゴすぎです。僕には絶対無理な作業です(笑)。

勇生さん根気のいる作業だよね(笑)。ちなみに、練習用の三味線は花林という東南アジアの木で仕上げます。ちょっと紅木と比べると白っぽい木です。

まさにプロの仕事ですね。作業的には亀屋さんはどこからどこまでを担当するのですか?

勇生さん三味線というのは、いまは一丁全てを作る人はいないんですよ。棹を作る人は棹師、胴を作る人は胴屋さん。うちは、それらを繋げて皮を貼ったり、糸巻きを付けたりさわりを付けて音を整えてお客様にお渡しする職人です。

最後に三味線を完成させる組み立ての職人さんということですね。

勇生さんそうですね。うちにある『東京マイスター』の名前は、組み立て工として都から貰いました。

マイスターという制度は言葉的にも最近出来たものですよね?

勇生さんそうです。東京都が作ったものです。

現代だと、そういう称号みたいなものがあった方が、お客さんの信用を得るのでしょうか?

勇生さんそういう部分はあると思います。今は伝統工芸は下火だし、後継者も少ないので、東京都が「少しでも力に…」ということで作ってくれたんだと思います。

勇二さん建築士だと一級建築士というように資格が付けられるけど、職人だとそういう資格がないからね。一つの目安として、東京都さんがやり始めたんだ。

勇生さん我々は職人というだけで、なんの肩書もないですからね(笑)。東京都がお墨付きをくれたわけです。

ドイツなんかは古くからマイスター制度で職人さんを保護していますよね。

勇生さんまあ、真似したんだろうね(笑)。

勇二さんこれを貰うには審査があったけど、これは何もうちに限ったことじゃないんだ。

勇生さん江戸切子なんかも対象になりました。

大切な伝統技術を守ってもらいたいです。しかし、やはり後継者は少ないのでしょうか?

勇生さんはい、それは事実ですね。昔はそこら中に三味線があったから、街中に三味線屋がありました。でも今は、三味線をやっている人が少ないから、当然、お店も減ってきた。潰れることはないですが、後継者はいなくなってきましたね。民族音楽ですから、昔はみんなやっていたものなんですけどね…。私のお婆さん世代くらいまでは、みんな三味線やお琴をやっていました。親が花嫁修業の一環として習わせたりしてたんです。

ちょっと前のソロバンみたいな感覚でしょうか。

勇生さんそうそう。学校から帰ってくると、そのまま稽古として習いに行くんです。すると、みんなもそこにいますからね。そういう習慣だったんです。だから、どこの家にも三味線があった。それが我々の親世代になるとピアノに代わります。

僕の世代でも一家に一台ピアノでしたね。ただ最近だと、ポップミュージックやクラブミュージックでも三味線と一緒に演奏する現場も増えてきたので、三味線は注目を浴びているものだと思っていました。

勇生さんそれは主に津軽三味線ですね。

勇二さん津軽三味線は、リズム的にも若い人にも合ってるから一緒にやるようになってきたんだよ。古典ものの三味線をやっている演奏家は、古典ものを守ってやってくださっています。

三味線がここまで細分化されていたとは知りませんでした。少し恥ずかしくもあります(苦笑)。

勇生さん三味線と聞くと、全部同じだと思ってる人も多いけど、実際は、細かく分けると何十種類もあるんです。だからお店によっても、津軽三味線が得意なお店、長唄が得意なお店、民謡が得意なお店…、と、色々と得意なものも分かれてきます。特に、東京はお店が多いしプロも多いので、その分、得意なものも特化しやすくなります。うちは色々なジャンルの三味線を扱いますが、プロの方は比較的長唄=歌舞伎の方などが多いいです。

職人技にさらに磨きがかかりそうですね。

勇生さん特化してないとプロの要求に応えられませんから。

それでは最後に、これから三味線に触れてみようと思う方達に、三味線の魅力やメッセージをお願いします。

勇生さん三味線音楽を聞かせると、ほとんどの人は喜んでくれるそうです。きっと日本人の民族音楽なので、内にあるものが呼び起されるんだと思います。今まではホールなどでしか見る機会がなかったかもしれませんが、最近は、津軽三味線の若い人たちが、海外でツアーをしたり、ライブハウスや公園で演奏したりと、人の目にも触れてきたので楽しみに思います。メディアの方達も、こうやって、洋楽・邦楽の区別なく目に触れる機会を作ってくれると嬉しいです。三味線をやってくれる人がいないと、我々は腕の奮いようがないからね(笑)。

勇二さんいつの間に三味線が珍しい楽器になってしまったよね。我々ももっと宣伝してもらう機会を掴めるといいよな。

このコーナーでも邦楽器含めバリエーション豊かなものに出来るよう努めます。本日はありがとうございました。

インタビュー&ライター 浅井陽 / フォト 花豆仁
取材日:2015年7月

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