楽器屋探索ディープレポート Vol.28
ギターショップ はせべ楽器
- はせべ楽器について
- 作曲家、ギタリストであり、ギター講師として40年以上の実績をもつ長谷部二郎氏が、2010年10月にオープンしたクラシックギター専門店。クラシックギター、弦、アクセサリーやCD、楽譜などを扱うネット通販をメインに、中野の店舗では良質なクラシックギターの購入をサポート。ギター愛好者のための音楽情報誌「ギターの友」、クラシックギタースコア集なども出版。ギター教室では、無料の貸しギター・ウクレレがあり、手ぶらでレッスン可能。JR中野駅南口から徒歩2分。
- はせべ楽器店舗情報
- ギターショップ はせべ楽器 公式サイト
中野区中野2-29-15 サンハイツ中野705号
お問い合わせ:03-6382-8082
楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 はせべ楽器 編
このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。
本日は、中野のクラシックギター専門店「ギターショップ はせべ楽器」のオーナー長谷部二郎さんにお話をお伺いします。オープンの経緯からおしえてください。
2010年10月のオープンになります。最初はショップではなく、ギターを教えていたのですが、専用の事務所を借りることになったのをきっかけに、ネット販売も兼ねて楽器ショップとしてオープンしました。
今年の6月にこちらに移転されたのですね。
はい、そうです。ここは中野2丁目ですが、以前の中野3丁目のマンションから移転してきました。信号を渡って30秒のところです。
マンションの一室での個人経営スタイルですが、メインはネット通販になるのでしょうか?
そうですね、8:2の割合でネット通販をメインです。小規模ながら一般のお客さんの来訪もあって、ちょっとたいへんなところもありますね。
そのあたり、くわしく聞かせてください。
ご覧いただいているとおり、マンションの貸事務所ですからね。看板が出せないので、お客さんから「お店の場所がわからない!」というご不便はおかけしています(苦笑)。こちらも、そのたびに毎回ご案内しなければなりませんからね。
たしかにマンション内で看板がないと、迷ってしまうかもしれませんね。
うちがクラシックギター専門店だとわからずに連絡をいただいたり、お店に来られたりする方も多いです。「ドラムのスティックありませんか?」、「マイクありますか?」とかね(笑)。
中野駅近くの楽器店ということで、ネットで調べるだけだと「ギターショップ」を見落としがちです(笑)。
すべての業務を私一人でまわしているので、お店を不在にする場合もありますし、阿佐ヶ谷の自宅が本部になっているので、けっこうな頻度で店主が留守の楽器屋さんなんですよ(苦笑)。
個人経営の楽器ショップや工房ではよくあることです。あらためて確認ですが、店舗名は「ギターショップ はせべ楽器」ですよね?
はい、「はせべ楽器」と呼んでいただいていますが、正式名称は「ギターショップ はせべ楽器」です。ネット通販がメインで、教室を併設した独特の店舗形態なので、一般の楽器店とは違った客層かもしれません。
クラシックギター専門誌「ギターの友」を130号まで出版
こちらの店舗を利用されるお客さまはどのような方ですか?
私の知り合いやレッスンをしている横のつながりで、ギターの先生をやっている方も多いです。楽器店としての主な業務は、弦などの消耗品を用意しておくことや、先生方や一般の方から頼まれたり、注文を受けたりしたものを、私が問屋や独自のルートで良い楽器を選んで仕入れることですね。
ここに並んでいるギターもお客さんから注文されたものですか?
そうです。さすがに、高価な楽器となると、注文なしでここに並べておくことはありませんが(笑)。ここにある楽器の在庫商品は、問屋から単品では買い取りできずに、まとめ買いしたものや、ギター初心者向けの数万円程度の普及品やウクレレです。修理やメンテナンスも依頼があれば、問屋や業者に頼んでいます。
店内にはたくさんの書籍、スコアなどもありますね。
はい、うちは雑誌や楽譜の出版事業(はせべ企画出版)もやっています。私がアレンジしたギター譜を中心に出版しているもので、クラシックギター専門誌の「ギターの友」は1997年の創刊から130号まで出版しています。
出版が事業の柱でもあるのですね。このような専門誌を出版しつづけていることは、本当にすばらしいと思います。
ありがとうございます。個人出版のようなものですから、大型の店舗に並ぶわけではありませんが、ここでしか手に入らないものでもあります。気に入っていただけたら嬉しいです。
長谷部さんのノウハウや人脈が凝縮したお店なのですね。今後の展望として考えていることはありますか?
今後の展望…。私は64歳になって、もうある程度やりきったというか、むしろ、いずれ病気で辞めざるを得なくなる、という流れが見えてきていますからねえ…(苦笑)。でも精一杯続けますよ!
長谷部さんの経験をふまえて、若い世代にアドバイスをおねがいします。
個人事業的な経営をされている方には、経営の持続性を考えたいなら、早いうちに規模が小さくても会社形態での経営にするべきと、アドバイスしておきたいですね。楽器や楽譜の仕入れ、書籍出版、流通まで、会社名義でないと出来ません、というところはいまだに多いですからね。それと、私が「はせべ楽器」を継続させるとすれば、会社名義での運営にして、誰かに継いでもらう必要があります。個人経営でここまで来ちゃうと、今からそこまでやる必要があるのかな…、と考えちゃいますから。
事業展開や継続性の面を考えると、会社組織にしたほうがよいということですね。どちらも一長一短で、向き不向きもあると思いますが、すべてをお一人でこなしてきた長谷部さんがおっしゃるのであれば、一度考えてみたいテーマですね。
なかなか音楽の仕事だけでは生活ができなかった
つづいて、長谷部さんとギターとの出会いについて、歴史をさかのぼって教えてください。
中学2年生くらいの時に、高校生だった兄が、東京音楽アカデミーという通信教育でギターを弾いていた、というのがギターとの出会いです。
そこからギターに興味を持ちはじめた?
それまでは、どちらかというと、ラジオ製作のようなモノづくりが好きで、発明家を夢見ていました。ギターそのものに興味をもったという感じではなかったと思います。
モノづくり少年にとって、ギターのどういったところが魅力でしたか?
ギターの音色が好きだったこと、あと作曲ですね。優れたプレイヤーになるというよりは、曲を作るほうが楽しかった。やっぱりモノを作ることが好きなのでしょうね(笑)。
それが、現在の作曲やスコアアレンジの仕事にもつながっているのですね。その後の進路は?
20歳の時に、出身地の新潟から上京してきました。日本ギター音楽学校を卒業後、新堀ギターに6年間勤めて円満退職して、28歳の時からギターを教えるようになって、レッスン、演奏、作曲、編曲、出版などなど、クラシックギターに関することはなんでもやってきました。
ギターの仕事で生計を立てられた?
いえ、なかなか音楽の仕事だけでは生活が出来なくて、日払いアルバイトから、ビルの工事現場、長いあいだ、清掃員もやっていました。大日本印刷で働いたけど、腰を痛めて1日でやめたこともありましたよ(笑)。
やり続ければ、いろいろな道が開けてくるもの
それでも、クラシックギターの道をあきらめなかったのですね。原動力となったのは何でしょうか?
たとえ、作曲家がダメでも音楽にたずさわる仕事が出来ればいいな、という思いで、夢中でやっているうちにここまで来てしまいました。田舎から出てくる時に、周囲の反対もあったぶん「絶対、作曲家になる!」という強い気持ちはありましたね。
日々の生活や現実で夢を見失いかけている若者はたくさんいると思います。ぜひ、長谷部さんからのメッセージをおねがいします。
やりたいことをやり続ければ、最初に描いていたものとちょっと違っていても、いろいろな道が開けてくるものです。たとえば私は、40歳の時に直腸がんになってしまいました。家族や周囲には心配をかけましたが、おかげさまで、無事手術をして復帰できました。それがきっかけで、妻と一緒にギター教室や演奏活動をするようになり、それがどんどん活気づいて、アルバイト生活からも卒業できました。音楽が好きなら、楽器にもとことんこだわって、一生音楽を楽しめるよう人生を送っていただきたいです。音楽は楽しいものですので、思いっきりやりたいことをやってください。
あきらめずに続けていれば、思わぬことから新しい可能性が生まれるのかもしれませんね。本日はありがとうございました。
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