e楽器屋.comが取材した楽器店・インタビュー特集(全36回・2015年3月〜2019年12月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

楽器屋探索ディープレポート Vol.30

Nancy 渋谷

Nancy渋谷について
1950年代のギブソン&フェンダーを中心に、輸入ヴィンテージギターを扱うギター専門店。1988年9月名古屋にて創業。1991年に東京・目黒に2号店をオープンさせ、のちに渋谷区神南に移転。30周年を迎えた2018年の7月より、長く親しまれた公園通りからファイアーストリートの新店舗にて歴史の新たな章をスタート。ミュージシャンとしても活躍するオーナーKUNIO KISHIDAの本物にこだわる「ヴィンテージ愛」で、海外・国内多くのギタリストの信頼を集める。
Nancy渋谷 店舗情報
Nancy 公式サイト
渋谷区神南1-3-2不二ビル2階
お問い合わせ:03-3780-0929
営業時間:12:00〜19:00(年中無休)

楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 Nancy渋谷 編

このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

有限会社ナンシー代表取締役 岸田邦雄 氏

本日は渋谷のヴィンテージギターショップ「Nancy」代表の岸田邦雄さんにお話をお伺いします。昨年(2018年)の7月に現店舗に移転されました。オープンはいつになりますか?

1988年9月に名古屋で創業しました。1991年にナンシー2号店として目黒区大橋に東京店をオープン、1994年頃より渋谷の公園通りにしたのち、昨年ここに移ってきました。

岸田さんは名古屋の出身なのですね。

はい、名古屋生まれです。18歳で上京して音楽修行をしていたので、なにかやるなら東京で、と考えていました。一時的に体調を崩して名古屋に戻っていたときに、最初のお店をオープンしたので、名古屋店が1号店、体調がよくなってから東京に2号店を出しました。

渋谷公園通りの店舗は、昨年まで20年以上営業されていましたが、ファイアー通りに移転された理由は?

昨年の夏で30周年を迎えたのを機に、何かやろうと思っていたので、移転することにしました。

それでは、Nancyで扱っているヴィンテージギターについて教えてください。

主に、エリック・クラプトンやレッドツェッペリンなど、ロックの源流となるミュージシャンが使っていた50年代のギブソンやフェンダーのギターと、その流れを継いでいるものがメインです。世界中が彼らの音に憧れたのですが、それらの楽器はもう二度と同じものは作れません。だから、「ヴィンテージギター」と呼ばれ、高価で取引されているわけです。

聴いた瞬間感じるものがある。それがヴィンテージのスゴさ

素朴な疑問ですが、昔に作られた古いギターと同じものが作れないのはなぜなのでしょうか?

理論的なことでは、技術と材料。たとえば、レスポールのギブソン社は工場が何回も変わっているし、職人やスタッフ、製作機械も入れ替わってしまっているからね。音を聴けば分かりますよ(笑)。それは、言葉では言い表せない。そこについては、ギターの専門ではない、一般のリスナー、音楽ファンほどわかっていたりします。

そうかもしれません。本日、お店で鳴っていたギター、とても美しく、そして力強い音に感動しました。

でしょ!聴いたその瞬間に感じるものがあるよね。それがヴィンテージ・ギターのスゴさ。ここにある最近のレプリカの何本かは、エリック・クラプトン等のアルバムで使われたギターと同じスタイルだけど、マテリアル等はかなり近くはなってきましたが、音はまだまだ距離があります。あの音が欲しければ、同じものを買うしかないね。

それはもう、高価にならざるを得ないと。

そうです。倍以上出さなくてはなりません。そもそも入手すること自体がむずかしい。本物を求めると、たとえば1959年のギブソン・レスポールだと、ものによっては何千万円にもなる。頼まれれば、ときにはアメリカのコレクターのつてを使って探してきますけど、多くのお客さんにとっては、予算の範囲内で、できるだけ「本物」に近いギターがほしいよね。もっと手ごろな値段で手に入らないか、ってなるでしょ?

もちろんです。現実的にギターに何千万円を出せます、とは言いにくい(苦笑)。

今は、そういったニーズに応えるべく、世界中のギブソン・ファンがアイデアを出し合い、メーカーの人たちも試行錯誤を繰り返して、当時の音を再現できるように日夜努力されています。

岸田さんが、ギターメーカーに意見を述べる?

そう。最近は少なくなりましたが、アメリカからきたギブソンのスタッフに「何をすればいいと思う?」と聞かれるので、当時の音を知る者として「ホンモノにどれだけ近づけるか?」というスタンスで協力してきました。そのギブソンは、最盛期から60年の歳月を経て、またひとつの頂点に近づこうとしているよ。ようやく、すばらしいギターが現れつつある。

ショップやユーザーがメーカーと共に音を追求していくようなことって、よくあることなのですか?

昔から努力していましたが、メーカーにとって日本の市場が重要に感じる90年代になるまでは、アドバイスしても、あまり成果はありませんでした。自分がお店をつくったのも、すばらしいギターの音を、もっと広めたいと思ったからで、同じように思っていた人たちが集まったということです。

継続して、良いものを伝えていくのが僕らの役目

ヴィンテージギターを扱うお店として、これから売り場や販売方法の変革を考えていることはありますか?

マニアックな人たちに、変わらない価値を見いだしていただけるお店でありつづけなければならない。そういう意味では、基本的にお店のスタンスはこれまでと変わりません。継続して、良いものを伝えていくのが僕らの役目ですから。

都内には、ビル全フロアが楽器店という大手も複数ありますね…。

メガストアは、あらゆるニーズに応えなきゃならないですから。メガストアの店長をやっていたことがあるので、そのような事情もよくわかります。でも、僕らは限られた付加価値の高い楽器を扱っているので、良いと思ったら、高くても仕入れる。良いものだったら高くても買うのがポリシーです。ちなみに僕は、お客さんにも、同じ年代のギターが並んでいたら値段の高い方を買いなさい、とアドバイスしています。

同じようなギターが並んでいたら高い方を選んだほうがよい?

たとえば、中古車屋で、まったく同じようなクルマが並んでいる。一方が2割ほど安い、という理由で買うと、すぐ修理が必要だったり、結局2割以上の費用がかかること、よくありますよね?整備士が見ればわかるのかもしれないけど、クルマの素人には見分けられない。それはギターも同じなのです。良いものは、仕入れも高いので、それなりの値段をつけざるを得ない。高いだけの意味があります。

いわゆる「安物買いの・・・」というやつですね。良いギターを選ぶコツを教えてください。

エフェクターは一切かけないで、アンプ直、ピッキングでしっかり鳴らしてください。それがヴィンテージまたはギター本来の音です。そもそもギターは、アンプ直で素晴らしい音がでるようになっている。そういう本来のギターの鳴らし方を習得するのにも、音のレンジが広いヴィンテージはピッタリだったりします。本物に出会ってしまうと、エフェクターでは超えられないサウンドに気づきますよ。

エフェクターのディストーションやオーバードライブを使うのではなく?

そう、アンプとピッキングだけで歪ませます。今は、エフェクターをメインに音作りする人たちが圧倒的に多いですね。エフェクターは操作性等、とても素晴らしいです。でも、それは「疑似」なので、エフェクター無しの音を知っていただくと、エフェクターを使った時のセッティングが変わります。

兄のお古ばっかりだったから、古いものは嫌いだった(笑)

岸田さんの音楽的なルーツも気になるところです。ギターとの出会いを聞かせてください。

小学校に入る前かな。実家がガラス屋で、職人さんたちが、休憩時に、裏の寮で「禁じられた遊び」を弾いていていたんですね。それがかっこよくて、いつも聴いていたら、職人さんが弾き方を教えてくれて、ギターを弾くようになりました。それが出会いですね。

影響を受けたアーティストは?

小学生の時にビートルズが出てきて、衝撃を受けましたね。それから、ブルースやギターソロにも興味をもつようになって、クラプトンやジミヘンを自分でも弾いてみたけど、いくら練習しても、僕の国産ギターで、あの音が出るはずはなかったんだよね(苦笑)。

その時からヴィンテージギターに興味を?

いや、じつは最初、僕は兄弟が多くて、兄のお古ばっかり着せられたりしていたから、古いものが嫌いで(笑)。ギターは新品のギブソンをもっていました。それが、その当時オールドギターという名称で、ヴィンテージギターが日本にも普及してきて、その音を聞いたら「これは認めざるを得ない…」と。それ以来ヴィンテージの魅力にハマったというわけです。

最初は古いものが好きではなかった!?

そう、古いものは嫌いだと言いながら、それを覆したのがヴィンテージギターなんです。かくして今のこの状況なんだろうね(笑)。

今や日本におけるヴィンテージギターの草分け的存在です。

単にヴィンテージギターが好きで、長くやってただけです。結果、そうなっちゃったね(笑)。でも、僕はまだ66歳だし、ミュージシャンもやっているんで!ヴィンテージギターも惜しげもなく弾きまくるし、いまだに欲しいギターがあるよ。60歳の時に、そろそろギターを整理しようかと10本売ったはずなのに、63歳で13本増えていたしね(笑)。

ご自身でもヴィンテージギターをコレクションしている?

いえ、僕自身はコレクターではなく、あくまでプレイヤー。自分の音楽に必要な音があって、それを手に入れたら結果増えていたという(笑)。収集癖からではないよ。

当サイトは若い世代のアマチュアバンド、ギタリストの読者も多くいます。最後に、岸田さんからメッセージをおねがいします。

自分の好きなことを追求していれば、すばらしい出会いが必ず待っているのだと、この歳になって、より実感しています。自分から「好きだ、好きだ」と言いつづけていたら、憧れだったヒーローに出会うことも出来たし、欲しいと思ったギターも、向こうからやってきました。最後は「愛」ですよ。ギター愛、音楽愛、このショップに対する愛etc.それで、僕は貧乏暇なしになっちゃったのだけど(笑)。好きなこと、愛せることを、まっすぐやっていただきたい。

心に響くメッセージ、さきほど聴いたヴィンテージギターの音色を想い出しました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2019年2月)

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