楽器屋探索ディープレポート Vol.20

渋谷 三浦ピアノ

三浦ピアノについて
渋谷駅徒歩2分、宮益坂にあるピアノ専門店。創業1925年(大正14年)、戦前から三代にわたり「ピアノの良さを伝えたい」とこの道ひとすじ、ピアノ文化の発展をみつめてきた老舗。1960年オープンの「渋谷店」は展示営業と貸しスタジオ、本郷通りにある「本郷店」は修理工房をメインに展開。スタッフ全員が調律師で、技術者の手仕事と信念に裏打ちされた優良ピアノのみを提供。また、併設するピアノスタジオ(全9室)では毎朝、点検調律を行い、いつも安定したコンディションで練習ができる。
三浦ピアノ店舗情報
三浦ピアノ公式サイト
渋谷区渋谷 1-14-6 平野屋ビル3F
お問い合わせ:03-3409-7641
営業時間:9:30 〜 19:00

楽器店・中の人に話を聞いてみた〜 三浦ピアノ

このコーナーは楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

三浦ピアノ 代表取締役社長 三浦徹

本日は三浦ピアノの渋谷店で、代表取締役社長の三浦徹さんにお話をお伺いします。とても歴史のあるお店です。オープンの経緯などお聞かせください。

祖父の代からなので、私で3代目です。楽器屋としてはかなり古い方ですかね。創業は1925年となっていますが、実際のところ定かではないというか。

銘打っている1925年創業というのは……?

創業当時の記録があまり残っていないんですよ(笑)。大正14年から昭和2年の間だろうということだったので、1番古い1925年(大正14年)にしています。

大正時代となると、ピアノ事情も現代とは随分違ったのではないでしょうか?

そうですね、当時としては新しい仕事の形態だったと思います。その頃はまだヤマハやカワイなど国産ピアノが台頭していないですし、そもそもピアノ1台が家1軒と同じぐらいの値段だったような時代ですからね。

お祖父さんには、ビジネス的に先見の明があったのですね。

祖父は海外に行くような船乗りだったそうで、ヨーロッパから買い付けたピアノを、修理して販売するということからはじめたそうです。宝くじに当たってそれを元手に事業を始めたという話も聞きましたが、祖父は寡黙な人だったので、詳しくはわからないんですよ (笑)。

スタッフ全員が調律師でピアノ調整ができる技術者

90年以上の歴史がある、三浦ピアノの特徴やモットーを教えてください。

新品・中古のピアノ販売、修理をおこなっていますが、自分を含めスタッフ全員が調律師でもあり、ピアノ調整ができる技術者であることでしょうか。営業だけ担当するという(スタッフの)ポジションがないのです。

全員が調律師というのはすごいですね、技術者が営業の対応もしているのですか?

はい、一般的には販売だけを担当する「営業担当」がいると思いますが、楽器の知識は限られます。やはり、人から聞いて覚えた知識ですからね。ベテランの方でも勘違いしている場合があります。

自分の手で楽器をさわっている技術者にしか分からないことがあるのですね

当店では、お買いいただいたピアノにトラブルがあった場合、販売を担当したスタッフが技術者としての責任が出てきますので、楽器に対しては正直にしか話せません。売るためだけに、少しばかり「盛った」営業トークのようなことはできません。

中古ピアノの販売にあたってのメンテナンス作業はどのように行っているのですか?

本郷店の工房で、選任の技術者2、3人で1台のピアノを2週間ぐらいかけて、解体、組み直しをしています。といっても、何でもかんでも交換すれば良いというわけではなくて、シーズニング(時間をかけて慣れること)で良くなっている部分もあるので、その個体の本来1番良い形にして提供します。新しいピアノでは出ない音が、中古ピアノで表現できることもあるのです。

いわゆる“味”といわれる部分を活かす技術ですね。高度な調整技術が必要なのでは?

そのとおりです。そのピアノの歴史や個性を無視して、ただ部品交換するだけなら2日あれば商品にできるでしょう。でも、本当の仕事というのは、そこから先が大事なんです。

仕入れたピアノをそのまま売るようなことは絶対にしません

大切な楽器を活かすことを考えると、決して安易に商品化して欲しくないですよね。

弊社では、仕入れたピアノをそのまま売るようなことは絶対にしません。業者からの仕入れで、オーバーホール済みといわれるピアノでも、うちでは、さらに時間をかけて調整し直します。だから、同じ型の中古ピアノでも、他店に比べると若干高くなってしまうのですが……。

仕事に見合った金額ですから、わかる人はむしろ価値を感じるのではないでしょうか。

そうだと嬉しいですけど。例えば車であれば、同じ年式の同じ車種でも、状態が違えば値段が大きく違っても、お客さんがわかってくれるじゃないですか? ピアノの場合はそのあたりを理解していただくのは、なかなか大変ですが、技術者として誠実な会話をすることでご理解いただけるお客様は多いです。

中古車は走行距離などで状態がわかりやすいですが、ピアノは内部構造が複雑かつデリケートな楽器ですからね。

はい、でも、そこはきちんとご説明して、手をかけた仕事の違いを見てくださるお客様に選んで頂ければ嬉しいです。中古ピアノ業界としても、ここはちゃんとしないといけないところだと思います。中古ピアノに良い印象をもっていない方も多くいらっしゃるので。

中古の良さが浸透してない、ということですかね。

オーバーホールの手の入れ方っていうのは、店によって全然違うのですが、一昔前はいい加減な業者さんも多くて、中古を安く買ったものの、あとから修理や調整代がかかって、かえって高くついたっていうイメージをお持ちの方も多いとおもいます。弊社の中古ピアノはお子様用にお求めいただいたものが次の世代までご利用になれるピアノとしてオーバーホールしています。調律に関していえば、むしろ新品の方がこまめな調整が必要です。

弦を張ったばかりの新品の方が、音がなじみにくいということですか?

そうです。新品のピアノはお届けしてから調律に入って、半年後に調律に伺いますが、その時点で、かなりチューニングが崩れています。といっても、新品には若い楽器だからこそ出る音というのもあります。ネットを見ますと「新品はだめだ」ということを言っている方も見られますが、そうではなくて、それぞれの良さがあるんですよね。

中古ピアノは相当古い年代のものもありますが、どれくらい使えるのですか?

そうですね、100年、というのはなかなかありませんが、50年ぐらいまでは新品と同じように扱える商品ではありますね。もちろん、その年代によって、それなりの修理の仕方、調整が必要です。

戦前からの「ピアノの良さをお客様に伝えたい」という想い

ピアノってやはりどこか特殊な世界観をもっていますね。

うちは戦前からヨーロッパや国内のいろんなメーカーを取り扱ってきた経緯があり、年代モノの扱いに慣れているせいもあるでしょう。そのへんは他の店ともまた違う感覚かもしれません。ただ、だからこそ、そこに力を入れて、きちんとした商品をお届けしようと思っています。

三浦さんはピアノを演奏されるのですか?

私は、弾く方ではなくて根っからの職人家系です。小さいころからプラモデルとか工作とか日曜大工とか、そういうのが割と好きな少年だったので、そのまま技術職にハマった感じですかね。芸術方面に関しましては、音楽よりは絵の方が好きでした。ピアノの外装修理でも、木目のピアノをより美しく手直すことに惹かれました。

調律技術なども幼いころから慣れ親しんできたのですか?

技術を身に付けたのは働き始めてからです。大学を卒業してからヤマハの調律専門学校に行き、その後、2年間ヤマハの営業で働かせていただいて、それから、うちの工房に入って何年か修行をしました。

営業、調律、それぞれの経験が現在の三浦ピアノに活かされているのですね。それでは最後に三浦ピアノからメッセージをお願いします。

戦前から真面目に「ピアノの良さをお客様に伝えたい」ということを第一にやってきたので、その信念に裏打ちされた弊社のピアノを見て頂き、その上で、うちのお店を選んでいただければ嬉しいです。

確かな職人の気持ちのこもったメッセージを頂きました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー&ライター 浅井陽 BLOG / Twitter(取材日 2017年8月)

過去のインタビュー記事はこちら

ミュージックジョブネット
サウンドペディア
宮益坂(渋谷区渋谷)
かつて富士山がよく見えたことから「富士見坂」と呼ばれていた「宮益坂」。100年に一度といわれる大再開発まっただ中の渋谷駅前(東口)から青山通りに上がる坂道で、道玄坂とならんで渋谷を代表する坂のひとつ。坂の途中には地名由来となった「宮益御嶽神社」があり、全国的にもめずらしいニホンオオカミの狛犬が鎮座している。
グランフィール
鹿児島県の(有)藤井ピアノサービスが開発した特許技術。アップライトピアノのアクション(打弦機構)に取り付けることで、連打性やトリル、タッチ感などグランドピアノに匹敵する弾き心地を実現。認定技術者により既存アップライトへの後付けも可能。三浦ピアノ渋谷店ではグランフィール技術を搭載したグランフィールピアノ(Gf01Wn)の試弾ができる。
音楽スポット探索ガイド