e楽器屋.comが取材した楽器店・インタビュー特集(全36回・2015年3月〜2019年12月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

楽器屋探索ディープレポート Vol.4

Psychederhythmサイケデリズム

サイケデリズムについて
1999年、20年間ギター業界で技術を磨いた石田紀之氏が独立し設立。佐橋佳幸、RADWIMPS、ゲスの極み乙女。、チャットモンチー、ZAZEN BOYS等の日本を代表するギタリスト、プロミュージシャンのオーダーギターを手がける等、プロからの信頼も厚いオリジナル・ギター工房である。ギターだけにはとどまらず、良いと思ったものはお店で扱うというスタイルは「こだわりを持たないこだわり」。本取材においては「ギターは弾き手が作るもの」という信念のもと、製作者である石田氏の姿は公開しないことが条件となった。
サイケデリズム店舗情報
恵比寿サイケデリズム 公式サイト
渋谷区恵比寿西1-9-6 WEST CO. 8F
お問い合わせ:03-5456-0755
営業時間:12:00〜22:00

楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 サイケデリズム 編

このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

“音楽”というワードを核に人が集まるギター屋でありたい。

本日は恵比寿のギターショップ、サイケデリズムさんにお伺いしました。個性的なアクセサリーが並ぶマニア心がくすぐられる素敵な店内です。

ギター工房とか修理屋のようなイメージを持たれてる方も居るかもしれませんが、ギターやパーツだけでなく、自分達が好むネイティヴなインディアンジュエリーを輸入販売したり、オリジナルで洋服を作り販売したりと、いわゆる『セレクトショップ』的な考えで(笑)。運営しているつもりです。

一応メインはオーダーメイドギター中心のギター専門店ということでよいのですよね?

お店に来てギターを弾いてもらえれば「あ、今の子達はこういう音が好きなのかな」という事がわかったりします。ギターというのは、あくまでもプレイヤーが作るものだと思っていているので、そういう意味でギター屋でありながら音楽という広いワードを核に人が集まるお店でありたいと、こだわってやっています。まあ…、雰囲気的に入りづらいショップかもしれませんけどね(笑)。

あくまでギターは弾き手であるミュージシャンありきである、と。

ギターの価値というのも弾き手によって作られます。たとえば(ストラトキャスターの)ハーフトーンはエリッククラプトンが一般に広めましたし、その当時にはジャガーやジャズマスターといったストラトキャスターよりも高値のギターもあったのですが、現在、ビンテージギターとして価値が高いものはストラトキャスターが多かったりします。多くのミュージシャンによる名演や名盤が作られたことで「自分も使ってみたい、真似したい」という、その楽器への憧れや需要が増えたんです。

ギターありきの音楽ではなく、音楽あってのギター。

次にサイケデリズムでのギター製作について教えて下さい。

基本的にウチで作っているギターは、オーソドックスなフェンダーギブソンスタイルで、それらをベースにして、現代の音楽のこと、お客様の趣向などを考慮しながら製作します。最近は、お客様の注文によって改造したり修理したりを繰り返しているうちに「最初からそれらを想定した理想的なギターを作ったらよいのでは」ということでオリジナル・ギターになることが多いですね。

サイケデリズム流ギターの雛形ってことですね?

そういうこと! 常に「今の時代流れだったらこういうギターがいいんじゃないか?」ということを考えながら作っています。ギターありきの音楽ではなく、音楽あってのギターですからね。

例えば、ドラムのオーダーメイドだと「ドカンと鳴るけどスッとした音が欲しい」といったように、抽象的な注文される方も多いですが、ギターでもそういうことはありますか?

どうかな…。でも、ギターの音って、そこまで大きな差は無いんですよね。ベースなんかは、ジャズベの音、プレべの音、スティングレイの音、なんてのはありますが、ギターはそこまではないかなあ。初めてのお客様ではない限り、その人のプレイをイメージして、『うちのギターだったらこれが合うかな?』って感じで合わせることは出来ますよ。

ギターの場合、パーツの組み合わせでも多様に音が変化しそうです。

僕は、ギターは手先で作るものでは無く耳で制作するものだと思っています。「こういう音に仕上げよう」という完成形のヴィジョンがあって、その上で「どのパーツを使おうか」となるわけです。高価なパーツを使ったからといって最高の音になるワケでも無いし、パーツ一つ一つにも音があって、どのパーツにもプラスの面とマイナスの面があります。

良い所ばかりではないと。

あるパーツを使えばチューニングが安定するけど、そのかわり鳴りが変わってしまうということもあります。だからといって、当たり前の事ですが、どのメーカーも商品のマイナス面は押し出しません。なので、「チューニングを安定させたい」ということで安定優先のパーツを使ってみたところ「鳴りが変わってしまった」となってしまうこともあります。パーツ選びについても、最初のイメージありきで何を優先すべきかで選びます。

“録りやすい音”や“聴こえが良い音”というのを常に学び、ディスカッションしている。

しかし、求める音というのは人それぞれ感性的な部分で、とても難しいように思います。

僕はミュージシャンの方のギター修理やメンテナンスもしていますし、レコーディングやライブの現場にも同行してPAさんやエンジニアさんと知り合って“録りやすい音”や“聴こえが良い音”というのを常に学び、ディスカッションしているつもりです。そういうことをしないと、求める音は作れませんね。

専属のギターテクニシャンの領域までカバーすると…。

そう教わってきただけですよ。ていうか、結局そこでしょ! 基本的にアーティストの作品を買う人達はライブなり音源なり「音」を聴いて買うわけですから、そこを追求する以外にはないんですよ。

徹底した弾き手ありきの方針よくわかりました。一方で、弾き手のことは無視して、“石田さんのイメージだけ”で作ってみたいギターはありますか?

製作サイドのエゴ優先で作りたいものは今のところないですね。唯一言えるとするなら、今後、ポピュラーミュージックが作られていく中で、サイケデリズムのギターがその一旦を担える楽器に位置付けられるものに成長していけたらいいな。と思ってます。

プロのように自分のイメージを持っていない人、たとえば初心者はどうやって適切なギターを見つければよいのでしょうか?

まあ、ギターをやりはじめたばかりの人に、ウン十万のギターを薦めるのもどうなのかなと(笑)。でも、ピッチやバランスの良いギターを使った方が上達は早いとは思います。実際に、ある程度ギターが弾ける人が、うちのギターを触って「初めからこのギターで弾いてたら、上達早かっただろーなぁ。」と言ってくれることもあります。

良い楽器は演奏に素直に反応するので上達が早いのかもしれないですね。

おかしな癖もつかずに上達が早まるのではと思います。それでも実際は、ウン十万ってギターを薦めるのは、ちょっと気が引けるとこもあるかな…(笑)。でも、憧れのミュージシャンが使っているのと同じギターから始めてみるのは一つの正解でもありますけどね。のめり込むに当たって、いいギターが上達を遅くすることはありませんから。

20年近くやってきた結果、弾き手ありきで密に作り込んだギターが“好まれるギター”になった。

ここまで、弾き手に向き合うギターを作るとなると、正直、お店的にも経営的にハードな部分はありませんか?

いわゆる隙間なのかもしれませんね(笑)。うちは20年近くやってきた中で、結果的にこの方法がよかったってことだけです。どのお店さんも、商売前提としての良いギターというのは“購買欲を掻立てて貰えるギター”ということが率直な意見なんでしょうが(笑)。うちの場合は、こうやって、弾き手ありきで密に作り込んだギターが“好まれるギター”になったということです。

サイケデリズムの確かな技術に支えられているのだと思います。

それはどうなんでしょう?(笑)。でも、長年やってきたウチの答えがこのスタイルということですね。

だから多くのプロギタリストのギターを手がけ、信頼が厚いのですね。

そこは繋がりや紹介などもありますが、確かに、仕事としてギターを弾かれている方が、ウチのギターを使ってくれたり、メンテナンスや修理に来てくれたりすることは多いですし、とてもありがたいことです。

プロの中には多忙でなかなかショップに来られない方もいるのではないですか?

そうですね、ツアーに出たりで長期間にギターの調子を見ることが出来ない場合には調整の仕方も変わりますよ。まめに修理に来てくれる人には繊細な調整を、逆に、なかなか来れない場合は、その期間分の事も考えて余裕のある弦高にしておこうとか…。使い方やメンテナンスの頻度によって処方は変えないといけない。お医者さんの診察と似た点はあるんじゃないかな。

心強い主治医のようですね。それでは最後にe楽器屋コムを見ている方たちへ向けてのメッセージをお願いします。

お時間があれば、サイケデリズムにギターを弾きに来てください。YouTubeなどネットで公開されているバンドのギターがウチのギターの音だったりすることも多いので、少しでも興味を持ってくれたら嬉しいです。機材や素材に対しても先入観をもたず、ただ、フラットな気分で弾きに来てくれれば楽しい所だと思います。百聞は一見にしかずということで!

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2015年7月)

インタビュー特集一覧(バックナンバー)

バンドメンバー募集のメンボネット ミュージックジョブネット
音楽スポット探索ガイド