e楽器屋.comが取材した楽器店・インタビュー特集(全36回・2015年3月〜2019年12月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

楽器屋探索ディープレポート Vol.5

高級手工ギター専門フォルテ楽器

下北沢 ギター専門 フォルテ楽器
フォルテ楽器について
1982年開業。今年で33周年となるクラシック&フラメンコギターの老舗。当時、低迷期にあったクラシック音楽業界、まさに谷底の状態といわれる状況から、ひたすら誠実な仕事で着実にその歩みを積み、いつしか日本全国からお客さんが訪れるまでの名店となる。『ギターは値段よりも楽器と人との相性で選ぶことが大切』、その言葉の中からも、ギターを手にする人への真摯な思いが伝わってくる。自分に最も合ったギターを知りたい人には、是非とも一度足を運んでほしいお店である。
フォルテ楽器 店舗情報
フォルテ楽器 公式サイト
世田谷区代沢5-6-1
お問い合わせ:03-3419-6230
営業時間:11:00~18:00 水木定休日

楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 フォルテ楽器 編

このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

フォルテ楽器代表 小川若治 氏

小学校5年でギターにハマる。大晦日の紅白歌合戦も見ないで弾き続けていた。

本日はギター専門店として開業33年の実績を持つ、下北沢フォルテ楽器代表の小川若治さんにお話をお伺いします。まずは、小川さんとギターの出会いをお聞かせください。

小学校5年生くらいの時かな、うちの兄が友達からギターを借りてきたんですが、それが『こんな面白いものがあるのか!』ってくらい僕の方がハマっちゃって(笑)。昔は、大みそかといえば、家族みんなで紅白歌合戦を観ていたものなんだけど、その紅白も観ないで、すっとギターを弾き続けていたのを覚えています。『さくら』の楽譜があったから、何時間も弾いていてね。世の中にこんな素晴らしく面白いものがあるなんて驚きでした。

ずいぶん早い時期からのめり込んだのですね。

その後、兄が3,000円位の安いギターを買ってきたんだけど、兄は「忙しいから」といって、全然弾かないもんだから、結局僕がずっと弾いてました。そんな感じで、高校くらいまで自己流でやっていました。

ギターのレッスンを受けたりはしなかったのですか?

高校一年の秋ぐらいに、家から自転車で15分くらいのところにギター教室の看板を見つけました。でも、高校生だった自分からは「大人の世界」に見えちゃって、「お前なんかに教えないよ」なんて言われるんじゃないかと勝手に想像しちゃっていました(笑)。5回くらい教室の前を行き来して、ようやく意を決して門をたたいたんです。そしたら、追い帰されるなんてことはありませんでしたね(笑)。

そのギター教室はどうだったのでしょうか?

入ってみたら、上級の人達が『アストゥリアス』という凄くかっこいい曲を弾いてました。これは難しい曲で、一人で弾いてるのに、まるで三人が一緒に弾いてるような曲なんです。僕はまだ『禁じられた遊び』が弾ける程度のレベルだったので、いきなりすごいもの見せつけられちゃいましたね。

高校に通いながらギター教室で練習を続けたのですね。

その後、二年くらい通っていました。ただ、指を壊してしまったのと、大学に通い始めたりなどで、一旦ギターからは離れてしまったんです。ギタリストを目指していましたが、指を壊してしまってはどうも出来ない。弾けないけれど、それでもやっぱりギターに関わりたいとなったら、お店をやるってことを思いつくじゃないですか?

そうですね。お店であれば、プレイヤーでなくてもギターと密に関われますから。

それで、大学卒業後は、ギターのお店についての勉強をしようと思い、河合楽器に入社したんですが、これがピアノの営業ばかりになってしまい、ギターのお店についての勉強は全くできませんでした。なので、河合楽器を辞め、ギター専門の店に移って6年ほど勉強してから自分の店を開きました。

それが、33年目のこのお店なのですね。

あっという間に老舗になってましたね(笑)。

フラメンコをやるなら、安いものでも良いので最初からフラメンコギターで。

とても初歩的な質問になります。クラシックギターとフラメンコギターの違いを教えてください。

楽器の形は似ていますが全くの別物です。フラメンコはスペインの民族音楽で、フラメンコギターは、その伴奏楽器として作られてます。なので、踊りのリズムに対し、瞬時に合わせられる音の立ち上がりが求められます。同様に、音を瞬時に止められることも求められます。そういった音の瞬発性を重視した構造のギターなんです。

なるほど。ではクラシックギターは?

クラシックギターはソロ楽器なのでフラメンコとは全く違います。簡単に言えば、音が広がって響く感じですね。形は同じギターですが根本的な作り方が違うんです。

同じギターでもジャンルが違えば代用はきかないものでしょうか?

クラシックギターを持っているからといって、それでフラメンコを習いに行く人がいますが、これは相当にまずいです! クラシックギターだと、どうやってもフラメンコの音が出ませんから、無理矢理フラメンコに近づけようとすると、変なフォームが身についてしまって、かえってマイナスになってしまうんです。後からフラメンコギターを買ってもその癖はなかなか治りません。なので、フラメンコをやるなら、安いものでも良いので最初からちゃんとフラメンコギターを買ってください。

目的に合わせてしっかり楽器を選ぶ必要があるということですね。

スタート時点で、適した楽器を買う事はとても重要なことです。値段で選ぶのではなく、やりたい音楽に適したものを買ってください。お店としても、お客さんのやりたい音楽やスタイルに合わせて、それに相応しいギターを薦めるようにしています。

相性のいい楽器を紹介してもらえるのは心強いです。

みんなそれぞれ演奏スタイルは違いますからね。まさに十人十色。だからまずは、お店に来たらまずは弾いてもらって、それを見てからお客さんに合いそうなギターを選びます。全然関係ない楽器を見ていても、いつまでもピンと来ないだろうし、お客さんにとっても時間の無駄になってしまうからね。

フォルテ楽器ではギターの修理などにも対応していますか?

当店での修理は微調整くらいですが、修理専門の信頼できる方がいますので、そちらの方で対応します。ちなみに、結構勘違されている方もいますが、ギターってほとんど修理出来るんですよ。ネックが折れたりすると諦めて捨てちゃう人もいますが、折れても潰れても、ほとんどのケースは直せますので諦めないでください。思い入れがあったり、価値のあるギターだったら、捨ててしまうなんてもったいないです。お店としては、新しいギターを買ってもらえたらそれは嬉しいことなんですが(笑)。

素晴らしいギターを仕入れ、お客様にピッタリのギターを見つけること。

小川さんがギターを取り扱うにあたって大切にしていることは?

素晴らしいギターを仕入れ、お客さんの求めているギターやお客さんにピッタリのギターを見つけること。そして、お客さんが何を求めているかを理解するのが何より大切ですね。これが理解できるようになるには経験しかありません。

それは、フォルテ楽器での長い経験が役立ちそうですね。

それと、やはり人間と楽器の相性っていうのがありますので、そのへんも考慮します。この仕事の面白いところでもありますが、たとえば、Aさんが気に入らずに購入せずに帰ったギターを、すぐ後に来たBさんが弾くと、全く違う音を奏で、一瞬で気に入ってしまった、なんてこともあります。

同じギターでも弾く人によって価値が変わってくるのですね。

そうですね。それにギターにしても、同じ人間が二人と居ないように、同じ楽器というのも二つとありません。同じ材料を使っても木は生物(なまもの)ですから、それぞれが違う。職人さんの特徴というは出てくるけど、それでも、同じ材料で同じ職人さんがつくっても、同じ音の楽器にはならないものです。

それでも、やはり(値段が)高いギターは良いものですか?

値段で選んで買っても意味がないんですよ。違う店で同じブランドのギターが売られていたとして、だったら安い方で買おうっていうのも間違いです。同じ楽器でも一個一個音が違うから、実物を弾いてみて、本当に良いと思った楽器を、そして自分に合った楽器を買ったほうがいいんです。

実際に手にとって弾いてみることが大事な事なのですね。

はい、ご来店頂いたらまずは弾いてもらっています。買う、買わないはどちらでも構いません。予算もあるでしょうし、初心者なのか経験者なのか、そしてそれらの条件でうちのギターと相性が合うのがあるかというのもありますからね。

弾かせてもらえるのは嬉しいですが、少し緊張するかもです(笑)。

手工ギター専門店ということで敷居が高いと思われるかもしれませんが、そんなことは全くありません。ギター演奏の上手い下手なんて関係ありません。うちは楽器屋なので、楽しんで弾いてもらえればいいんです。ぜひ、気楽にご来店頂きたいですね。

お店が落ち着くのには10年、少しずつ地道にやってきました。

お店をやっていて苦労されたことはどんなことですか?

この業界は専門誌と口コミでしか知られることがなく、宣伝しようがないので、ジワジワと地道にやる他なかったんです。その昔、御茶ノ水に楽器店が集中していた時代は、誰もが楽器を買いに御茶ノ水に行っていましたが、だんだん御茶ノ水に総合楽器店が増えて、専門的なギターを置く店が減ってきて、そのおかげで、下北沢の当店まで足を運んでくれる人が増えてきて…、そうやって少しずつ地道にやってきました。お店が落ち着くのには10年かかりました。

その10年で得た信用が礎になっているんですね。

ほんと、商売って大変ですよ(笑)。しかも、僕が店を始めた頃はクラシックが低迷していた時期で、『なんでこんな時期にクラシックギターの店やるんだよ』って言われもしましたし。それでも、ここからは上がるだけだと信じで、ここまで来れたんだと思います。

それでは、お店をやっていてよかったなと思うことは?

やはり全国各地から当店のギターを求めてお客さんが来てくれて、ギターを通して色々な人と出会えることですかね。各地方によって人柄も違いますしね。例えば、長崎のお客さんと北海道のお客さんなどもそれぞれ、求めているものや性格、色が違うんだけど、そういう人達とギターを介して通じ合えるというのは楽しいですね

本日は素敵なお話ありがとうございました。では最後に、小川さんから楽器業界を目指す方にメッセージを頂けますか。

まずは、楽器も人間の体と同じように生き物なのでメンテナンスというものは大切にして頂きたいですね。それはお客さんとの信頼にも繋がりますし、やっぱり、信頼関係が人を繋げていくんです。それと、例えば、楽器を買わずに何時間も居たお客さんが帰る際でも『ありがとうございます。また来てください。』と言えること。お客さんの背中に向かっていう事になるかもしれないけれど、お店まで足を運んでくれたことに感謝する、そういう部分はちゃんと伝わります。10回目の来店で買ってくれるお客さんもいるし、そのお客さんが知り合いに紹介してくれる事もあるかもしれません。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2015年8月)

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