e楽器屋.comが取材した楽器店・インタビュー特集(全36回・2015年3月〜2019年12月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

楽器屋探索ディープレポート Vol.8

2020年8月より、TC楽器ビル3F「大久保管楽器店」内に移転統合

和楽器百人堂

和楽器百人堂
和楽器百人堂について
千二百年以上の昔から姿を変えず今に伝わる宮廷音楽『雅楽(ががく)』、重要無形文化財である『能』、現在も多くの人に親しまれている『歌舞伎』、これらの舞台で使われる和楽器を中心に取り扱う、中古(ビンテージ)専門店。日本の伝統の門戸を広げるため、和楽器店独特の『敷居の高さ』を取り払ったオープンな店舗づくりは、初めて和楽器に触れる人にも優しいお店。TC楽器グループの和楽器専門ショップで同店舗内に大久保管楽器店も併設。
和楽器百人堂 店舗情報
和楽器百人堂 公式サイト
(移転あり)新宿区百人町1-11-29 ARSビル1F
お問い合わせ:03-5386-4566
営業時間:1100〜20:00 水曜休日

和楽器百人堂

楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 和楽器百人堂 編

このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

和楽器百人堂店長 水本真聡 氏

本日は和楽器百人堂の店主、水本真聡さんにお話をお伺いします。よろしくお願いします。まずは、百人堂開店の経緯から教えて下さい。

当店はTHE中古楽器屋(以降、TC楽器)グループで、最初はTC楽器の和楽器コーナーでスタートしました。当時、店舗独自のカラーを打ち出そうと積極的に和楽器を揃えていました。しばらくして和楽器の在庫も増えてきた所で、手狭だった和楽器コーナーの場所を移そうということになったのが約3年前(2013年)です。

百人堂の通り沿い数件隣にある、TC楽器の和楽器コーナー移動先が、この店舗になるわけですね。

そうですね。何しろ、当時は和楽器を見ている後ろでギターのアンプが鳴っているという売り場でしたからね(笑)。まずは、遠くてもいいので和楽器売り場の場所を別の場所に移そうと。その時たまたま、TC楽器通り沿いで、この場所が空いていました。

店舗にはクラリネットやトロンボーン等の管楽器もありますね。

実は私はTC楽器では20年間ずっと管楽器売場の責任者でした。それで「入り口は和楽器、奥は管楽器、斬新でいいかも!」という発想で、管楽器も取り扱うことにしました。それが大久保管楽器店の部分になります。

なるほど!和洋楽器が出会うお店作り素敵です。

このテナントが和楽器だけを扱うには広すぎるというのもありましたしね。でも、管楽器の人で笛や和楽器に興味を持っている人は多いです。実際、お店に来たお客さんで、そのまま和楽器を始める方もいらっしゃいます。

和楽器は自国の歴史的文化に接することができる貴重な機会。

TC楽器では管楽器担当だったとのことですが、水本さんと和楽器との出会いはどの時点なのでしょうか?

中学時代、吹奏楽部に入ってからずっと管楽器で、和楽器に興味は持っていましたが専門的に勉強したことはなかったです。本腰を据えて向き合ったのは、その3年前の和楽器コーナー移設の時からです。

和楽器の担当になることになって、どう思いましたか?

和楽器は自国の歴史的文化に接することができる貴重な機会なのですが、残念ながら現在の日本では軽んじられていると感じていました。なので、担当を振られたときには、とてもやりがいのあることだと思えました。

和楽器に関してのノウハウは担当になってからの3年間で培ったのですか?

はい、そうですね。能楽師歌舞伎のお囃子方に一年くらい定期的に話を聞かせてもらったり、舞台の楽屋にお邪魔して根掘り葉掘り質問させて頂いたりしました。

管楽器に対して和楽器は、吹きもの、打ちもの、弾きものと奏法も様々ですよね?

もちろん、(管楽器を)吹く事とは違う世界のものでした。でも、私は楽器全般に興味があったのでまったく問題なかったです。ギターや三味線も好きですし。特に、鼓には大変興味を持っていました。京都の大学に行っていたのですが、近くに長唄の練習場があって、笛の音や鼓の「イヨォ〜イヨォ〜」という掛け声をずっと聞いていました。

日本国民なら皆しっている有名な掛け声ですね。しかし、中古楽器を取り扱うとなると仕入れや選別などの専門知識が必要ですよね?

はい、もちろん国会図書館などに通って、資料や文献を調べたりしましたが、楽器をどのように評価するかについては和楽器と洋楽器とで本質的には大きな違いはありません。20年に渡って古今東西の管楽器を見渡すことができていたことでわかる部分も多いです。だから3年間で、それなりに足場が出来たのかなかと思います。

「鼓」「能管」「篳篥」「笙」などは江戸時代の品物が七割。

和楽器を取り扱うお店は沢山ありますが、百人堂の特徴について教えて下さい。

三味線や琴のお店は東京都内だけでも相当数ありますが、うちのメインは、あくまで中古、ビンテージもののや能管、雅楽器です。

基本的には中古楽器ということなのですよね?

はい、すべて中古楽器です。中古、と言いましても「」「能管」「篳篥」「」などは江戸時代の品物が七割方を占めています。あとは明治から昭和初期にかけて作られたものです。昭和以降に作られたものは新作扱いになりますね。

それは、古すぎる! すべてがビンテージということになりますね。そうなるとお値段も高そうです…。

超がつくビンテージですよ(笑)。グレードを落として安価なものを売るコンセプトの店舗ではありませんので、200〜300万を超える品物も珍しくはありません。もちろん、はじめて和楽器を始める人のためにお手頃価格の質の高い楽器も揃えています。

そう言って頂けると安心です。和楽器店と耳にすると、少し敷居の高さを感じていたので(笑)。

お客さんから、三味線に興味があってお店に行ってみたけれど、入りにくい雰囲気のお店が多く、入るとすぐに「ご紹介ですか? いくらくらいのものをお探しです?」と聞かれるという話も聞きますね。

なぜ敷居が高くなってしまうのでしょうかね(笑)?

まずは、和楽器は試し弾きをなかなかさせてもらえない上に、購入が前提になっているからでしょう。一般的に、(新品の)和楽器の購入は予算を決めて注文を受け、そこから製造ということになります。流れ的に試奏という概念があまりないのです。洋楽器の感覚からしたら受け入れにくいものでしょうね。和楽器が広まりにくい理由かもしれないです。

試し弾きをさせてもらえないのは、とても、受け入れがたいです(笑)。

当店で取り扱っているものは中古楽器で実在しているものなので試し弾きも出来ますよ。きちんと調整もしています。ビンテージギターのような感覚で身近に感じてもらいたいですね。

ビンテージギターやシンセ専門店と同じ感覚で和楽器も見て欲しいですね。

そうですね。その時代にしか手に入らない材料、匠たちの技術、それらの結集がビンテージという解釈です。そういった意味では和楽器も洋楽器も同じで、実物の楽器を見て弾いてもらえればその凄さと魅力がわかってもらえると思います。

ところで、東京都がマイスター制度などを作り、三味線など和楽器の伝統を守っていく動きがあると聞いています。

あれは今現在、楽器を作ったり組み立てたりする職人さんのためにあるものなので、うちとは直接関係しませんが、手仕事の価値を見直す動きは大歓迎です。当店は、いにしえの匠たちの技術だからこそ作ることができた歴史的価値のあるものを扱うので、楽器に大きな手を加えるようなことはしません。もちろん整備や調整は専門の職人に頼みます。

百人堂では三味線を作っているのですか?

作っていません。三味線に関しては昭和以降の新作が中心ですが、やはり中古品を扱っていますので、今活躍するマイスターの職人さん達の市場とは違うものと考えています。三味線については、消耗楽器と捉えられてきた背景があるため、中古三味線に対する誤解と先入観が未だに根強いのですが、質の高い材料が使われている道具の素晴らしさを見直す奏者も増えてきています。また、三味線の原料の紅木は輸入制限がかかってしまっているので、現状、今の職人さんのお孫さんの代まで新しい三味線を作り続けられるかどうか、非常に厳しいところではないかと思います。

古(いにしえ)のものとリンク出来るギリギリの時代。

能楽器や雅楽器の魅力というのはどういうところでしょうか。

まずは、千二百年以上の遠い昔に作られたものが、今でも現役で使われているところですね。それが、すごい技術力で作られている。鼓ひとつとっても、鼓工という職人たちが作っていた胴となる部分を今の技術で再現しようと思っても出来ない。どんな道具で作ったのかわからないくらい、刃の入れ方などが尋常じゃないのです。

そのような素晴らしい技術がなぜ現代に伝承されなかったのですか?

一つは、明治維新後の刀狩り(廃刀令)がありました。能楽というのは、武士が嗜む式楽の一つだったのですが、そういうものを、当時の明治政府が、刀などの武器と一緒に道具なり職というのも全て没収してしまったのだと言われています。特に都心の職人や工房は目につきやすいので一切合財没収され、そこで技術が分断されてしまったと。

時代背景があるといはいえ、むちゃくちゃですね…。残念です。

一方、雅楽のほうは天皇家の庇護のもとにあったのでちゃんと守られてきました。演奏者は楽家として保護されてきましたし、職人たちも人数は減ってきていますが、例えば、笙を作って宮内庁の式楽部に収めている職人さんも二、三人はいるようです。ですから雅楽器は今でも新品を作ることが出来ます。

雅楽は継承されたのですね。その後、能楽器の方はどうなったのでしょうか?

のちに、明治政府の役人がヨーロッパに行ったときに現地の人から「能は素晴らしい!」と言われ、世界からの評価が高いことを知ります。それで、慌てて帰ってきて能文化の巻き返しを図ったそうです。しかし時はすでに遅く、能の楽器を作るための道具の多くは処分されていて、当時のような道具はもう作れなかった。なので、その後に作られた楽器は、以前のような精巧な作りではないわけです。

なるほど、それで江戸時代以前の超ビンテージが求められていると。

そういうことですね。能楽器に関しては、プロの演奏家が納得するレベルの新品楽器を作ることはほぼ不可能で、新しいものとしてはアジア製のものも出回っている状況です。能や歌舞伎の舞台に立っている人達で、昭和時代以降に作られた新しい楽器を使っている人は殆どいません。

本日は貴重な情報と機会をありがとうございました。最後になりますが、この記事を見て和楽器に興味を持った方へメッセージをお願いします。

現代は、古(いにしえ)のものとリンク出来るギリギリの時代です。あと数百年後にはもう手に出来ないかもしれないというが現実で、素晴らしい歴史的財産を手に入れることも出来るという恵まれた時代です。それに、和楽器というと何十年も鍛錬しなければならないようなイメージを持っている方も多いのですが、構造上、シンプルなものが多いので、音を出して楽しむレベルであれば、意外と優しい点も魅力ではないでしょうか。和楽器のお店には暖簾がかかっていて一見さんが入りにくいお店って多いですが、当店ではオープンな作りを心がけています。少しの勇気を振り絞って、ぜひ、当店の門をノックしていただければ幸いです。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日:2015年10月)

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