e楽器屋.comが取材した楽器店・インタビュー特集(全36回・2015年3月〜2019年12月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

楽器屋探索ディープレポート Vol.24

新大久保 サウンド風雅

サウンド風雅について
新大久保駅から徒歩1分。「売り手の想いを、買い手につなげる。」オーナーである松雄氏の楽器に対する「こだわり」で多くのプレイヤーに愛されるビンテージサックス専門店。2011年オークションによる個人楽器売買の仲介からはじまった事業は、現在、19世紀の歴史的な名器を含め、ビンテージサックスの取扱い実績は業界トップクラス。熟練リペアマンが常駐し、大きな窓から電車が見えるアットホームな店内で気軽に試奏できる。個人レッスンや練習、ミニコンサートも可能なレンタルルーム併設。
サウンド風雅 店舗情報
サウンド風雅 公式サイト
新宿区百人町2-3-20英泰ビル3F
お問い合わせ:03-6233-9888
営業時間:平日:11:00〜20:00(水曜定休)
日曜 11:00〜19:00

楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 サウンド風雅 編

このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

サウンド風雅代表 松雄良実氏インタビュー

本日は新大久保のサウンド風雅、代表取締役の松雄良実さんにお話をお伺いします。まずはオープン前後の経緯からお願いします。

2011年、まだ屋号もない状態で開始して、法人化してからは5年が経ちます。大久保という老舗大手楽器店が並ぶエリアの中で、私は楽器の専門家でもなんでもなかったので異色の存在だと思います。

ビンテージサックスを扱うお店として有名ですが、楽器の専門家ではなかったと?

はい。はじまりは個人的にオークションで楽器の売買等をしていて、楽器はあくまでオークション売買の商品という感じでした。オークションは個人間のやりとりなので、時には変なものをつかまされたり、安心感がなかったりで、実際に楽器を触って、試奏して品物を確認できるような、そういう仲介的な場所が必要だと思って店を構えました。

最初は個人のご自宅ではじめられたのですか?

自宅でした。その頃、八王子に住んでいたのですが、わざわざ1時間ぐらいかけて来てくださる方もいて、ちょっと申し訳ないなぁと思っていまして。それで、どうせ店を出すなら、管楽器店が集まっている大久保がいいだろうと考えました。

ところで、なぜオークションで管楽器を扱おうと思ったのですか?

2010年のこと、たまたま、あるリサイクルショップのジャンク品コーナーに並んでいるサックスに出会ったのがきっかけです。私は高専の機械科出身で、それまでサックスなんて触れたこともなかったのですが、多分この穴をふさげば音が出るのだろうと、楽器の構造のメカニカルな興味から買って帰ってきました。

メカニックな目線からサックスに興味を持たれたとは!

それが80年前くらいのコーンアルトサックスでした。その頃はド素人ですから、パーツを手に入れて見様見真似で穴を塞ぐと音は出ました。80年前の音がよみがえる感じが面白かったですね。すごく魅力を感じました。

大手から老舗まで専門店がひしめきあう大久保エリアにあって、ビンテージの品揃えは圧巻です。なにか秘訣があるのですか?

未だに楽器業界のことが全くわからないのが功を奏しているのかな(笑)。うちの特徴としては、中古とビンテージ品だけで、基本的に新品は扱いません。楽器も、木管のフルート、クラリネットを若干取り扱うくらいで、ほぼサックスに特化しています。

ほとんど中古、ビンテージサックスだけのお店ということですか?

はい、以前、セルマー代理店さんの営業の方が「こういう業態の楽器店を見たことがありません」とおっしゃっていました。実際には、新品の管楽器も扱った方が、仕入れの苦労は少なくなりますね。

愛情を注がれた楽器を、紹介してその方にも喜んでいただく

それでもビンテージにこだわるのはなぜですか?

楽器っていわゆる「物」じゃないと思うんです。愛着のある楽器を手放すとき、どんな人のもとに行くのだろう、大切にしてくれる人に使ってほしい、そういう想いを持たれるお客さまがとても多いです。愛情を注がれた楽器をまた別の方に紹介して、その方にも喜んでいただくという仲人的な役割は、すごくやりがいがあるし、おもしろいですね。

楽器を手放す人から受け取る人、双方がうれしい取引を成立させるのですね。

はい、価格の面でも、うちは高く買って安く売っていて、まあ、商売の基本は「安く買って高く売る」だと思うので矛盾していますよね(笑)。

お客さんにとってはありがたいです。

おかげさまで、そういうコンセプトでやってきたためか、みなさん素晴らしい楽器を持ってきて下さいます。中古・ビンテージサックスに特化するなら、販売実績はトップクラスだと思いますよ。世界中でウェブサイトを見ている人が多いようで、海外でも有名らしいです(笑)。

ところで、もともとは楽器の専門家ではないということですが、仕入れの査定等はできたのですか?

最初はお客さんが教えてくれました(笑)。何千本と扱っているうちに、直感的にわかるようになりましたがビンテージの判断は今でも難しいところがあります。当初に比べれば、各店舗にビンテージのサックスを扱い慣れた熟練技術者が常駐するなど、扱う本数だけでなく、サービス内容も充実してきました。リペア担当者やスタッフも募集したのでなく、来てくれたのですね。本当にありがたいと思っています。

そういったお客さんの後押しもあって、お店の開店につながっていったのですね。

はい、その通りです。この店舗の内装をやってくれたのも、大阪の店舗をオープンしたのも、楽器の縁を通じてつながった方々が助けてくださったので広がってきました。うちはお客さんと一緒に作ってきた店だと思っています。

時間を越えて、当時の空気がよみがえるという感じが好き

それにしても、店内に並んだビンテージサックスの数々、思わず目を奪われますね。

そこのケースに入っているのはマイケルブレッカーが実際に使っていたテナーサックスで、レコーディングでも使用されたものです。セッティングも彼が使っていたままで、ものすごくキーの開きが大きくて、プロの人も「うわー、吹けない」というセッティングなんです(笑)。

マイケルブレッカーのサックスですか!僕はブレッカーブラザーズの大ファンなので感激です。

そのとなりのソプラノは、サックスを発明したアドルフ・サックスのお弟子さんが作った1870年代のものです。1870年頃の日本は西南戦争の時代ですよね(笑)。それを、うちのリペアー技術者が直して音が出るようにしたんです。西郷隆盛がいた時代の音が鳴っているっていう、何とも言えない不思議な感覚ですね。時間を越えたものに触れられるおもしろさ。当時の空気がよみがえる感じ、僕はそういうのが好きなんですよね。

(写真中央)Michael Brecker所有のテナーサックス

19世紀の楽器を修復するリペアー技術もさることながら、これだけの名品を集めるのは並大抵ではないです。

これも、自分から集めようと思ったわけじゃなくて、集まってきたんですよ。そもそも、この業界のことをよく知っていたら多分(お店は)やらなかったかもしれないですね。知らなかったからこそできる、「盲蛇に怖じず」って感じですね(笑)。

多くのお客さんに支えられて成長してきたのですね。

はい、ありがたいことですね。「もっと宣伝したら?」ともずいぶん言われますけど、お客さんの口コミや、つながりでやってきました。取材もほとんど断っていて、広告する必要性をあまり感じなかったのと、あまり突っ込んで聞かれると、素人なのがバレるから(笑)。

サウンド風雅さんでは、委託販売もされているのですか?

はい、委託品もたくさん集まっています。実は、他店のことはあまり知らないのですが、手数料が安いのか(7~12%)、うちに持ってきてくださる方が多いです。

商品の回転率もお店を選ぶ上で、大事なポイントになってくると思いますが。

そうですね、うちは商品の回転もかなり早い方だと思います。200万、300万するものでも、結構動きがあります。なかなかむずかしいところでもありますが「売る人も買う人も喜んでもらう」というのが理想です。

楽器業界において、従来とはまた違ったスタンスで、楽器の魅力を伝えていらっしゃると感じたのですが、松雄さんは、以前はどのようなお仕事をされていたのですか?

うちは代々キリスト教で、私は5代目なんです。以前は、キリスト教関係の団体の職員をしていました。その関係もあって、全国各地に行っていました。

音楽とはあまり接点の関係ないお仕事だったのですね。

物心ついたころから、身近に讃美歌があり、オルガンやアコーディオンなどに触れる機会は多かったですね。ただ仕事とは結び付きませんでした。でも、ちょっと別の形で音楽に関わっていたことはありました。

楽器は数千年に渡って、人間のそば近くに存在してきた

別の形というと?

当時、ミニコンポのCDプレイヤーって新品で買っても1年くらいで故障しちゃうのが多かったじゃないですか? 私は機械系だったので修理するのが得意で、そういうことで小遣い稼ぎのアルバイトのようなことをしていました。

はい、確かにミニコンポは寿命が短かった記憶があります…。

それでCD、MDと次々に新しいものが出てきて、でも、時間経過とともにそれも遺物になっていくんだろう、時代に流されないものがいいな、楽器なんて最適だなと思っていました。楽器は旧約聖書にも出てきて、重要な枠割をしています。数千年に渡って人間のそば近くに存在してきたんですね。そんなことを考えていたときに、リサイクルショップでコーンのサックスに出会ったというわけです。

文字が記されるずっと以前から、人と楽器は共に生きていたのですね。それでは最後にサウンド風雅からメッセージをお願いします。

中古、ビンテージ専門店ですが、初めての方でも入りやすい雰囲気です。一般的なお店ですと、ガラスケース、ショーケースにサックスを入れているところがほとんどだと思いますが、うちはあえてオープンにして、実際に手に取ってもらえるようにしています。

なるほど、ほとんどの楽器がすぐ手にとれる状態でディスプレイされていますね。

例えば、通常だと試奏させてくださいって言うのも、お客さまにとってはプレッシャーがありますよね?買わないと申し訳ないような空気になったりして (笑)。でも、うちでは、混み合っていなければ、1時間でも吹かれるお客様が多いですね。委託品のなかには購入前提の試奏のみという商品もありますが、基本的には吹いていただけます。気軽に来店して、気軽に試奏していただきたいです。サックスに触ったこともないお客様も大歓迎です。気軽にスタッフにお声をかけてください。

時代を越えて伝えられた風雅な楽器に囲まれた取材、本日は誠にありがとうございました。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2018年1月)

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新宿と高田馬場の間にあるJR山手線の駅。大久保通り沿いにある三角屋根の駅舎でおなじみ。「楽器のまち」百人町、チーズタッカルビが話題のコリアタウン、近年はネパール料理店も急増し、ベトナム、タイ、インドなど様々な民族料理店やハラルフード食材店がひしめく都内屈指の多国籍アジアンタウン。
サウンド風雅 大阪店・NAKATAどらむ
創業1920年の老舗打楽器店「中田楽器」のビンテージ・中古ドラム専門店と、東京・大久保のビンテージ・中古サックス専門店「サウンド風雅」大阪店を併設。なんば駅から徒歩14分、夕陽ヶ丘駅2番出口から徒歩5分。
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