e楽器屋.comが取材した楽器店・インタビュー特集(全36回・2015年3月〜2019年12月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

楽器屋探索ディープレポート Vol.6

プロフェッショナル・パーカッション

楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 プロフェッショナルパーカッション 編

このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

僕は出し惜しみはしない。全部教えるように心掛けてる。

インタビューも最後の第三部です。素朴な質問ですが、ここにある様々な打楽器、海外のものも沢山ありますが一体どのように入手したり作ったりするのでしょうか?

フフフ…、僕の周りにはねえ、有能なブレーンが物凄く多くいるんだよ。また、そのブレーンたちがまたブレーンを作っていくから、もう凄いんだ。すごくありがたい。

開店当時はネットもない時代、情報を集めるだけでも難しかったのでは?

始めた頃は毎年のように現地に行ってたね。まあ、今はブレーンが増えたから行くことはほとんどなくなったけど(笑)。ありがたいことに、アメリカでもヨーロッパでも「君のためになら力になる。何でも言ってくれ!」といってくれる人達が沢山増えたんだ。

そのような関係はどのように築いていったのでしょう?

彼らが日本に来たときや、もしくは『こんなモノが欲しくて探してる』ってなった時に、僕が色々手配したりしたからね。彼らから「なんでそんなこと知ってるんだよ!」なんて言われるくらいの注文もあったよ(笑)。日本人は知っていることを出し惜しみすること傾向があるけど、僕は全部教えるように心掛けてる。伝えることで相乗効果の信頼が出来るんだよね。

ブレーンが活躍したエピソードを教えて下さい(笑)。

数年前に『坂の上の雲』(司馬遼太郎原作・NHKスペシャルドラマ)っていう番組があって、当時のイギリス海軍の軍楽隊が使っていた太鼓を作って欲しいってオファーがあったんだけど、そういう吹奏楽の文献に詳しいブレーンがいるんだ。日本の最初からのコンサートのプログラムを全部調べて本にしちゃったという大先輩でね(笑)。

とんでもない人がまた出てきましたね。

谷村政次郎さんという海上自衛隊東京音楽隊を率いて指揮した吹奏楽研究の権威だよ。

その方の協力もあって作られたんですね。日露戦争の時代の話ですよね?太鼓はどうやって作るんですか?

時代考証をしなければならないからね、文献を調べてすごく考える(笑)。太鼓を絞めていたのがロープだったのか機械式(金属)だったのかとかね。結果、両方のタイプがあったんだけど、時代感を出すためにロープで作ってNHKに出したんだ。

プロフェッショナルの仕事です。

例え、画面の端っこに映るものだとしても、そこはちゃんとやらないとね。実は前、NHKのインタビューが僕にまわってきちゃった時もあってさ…。

まさか国営放送でも爆弾発言?

気付かずにしてたと思う。まあ、みんな知ってることだから(笑)。でも、面白いってことでOKになった。子供向けの番組だったんで、太鼓好きな子が減ったら困るから結構がんばっちゃったよ。

緊急事態でも、ブレーンが多ければ何とかなる。運も引き寄せるんだ。

今回のインタビューで、貞岡さんのように自由奔放に発言したほうが業界が健全化すると思いました。

まあ、こんな性格だからコマキ楽器ではうまくいかなかったんだろうね。今のコマキ楽器の社長は大学の後輩なんだけど、彼にとっては、僕は先輩でありながら、先代社長の使用人でもあるから、非常に扱いづらかったと思うんだ。難しい立場だろうね。

しかも、なんでもサクサクと発言される方ですからね(笑)。

でも、こういうタイプに通ずる人も結構いるんだよ。小栗哲家(舞台監督・次男は俳優の小栗旬)の会社でナンバー2の幸泉浩司(オペラ舞台監督・(株)アートクリエイション)って男もすごいんだ。彼も後輩でさ、日本一の舞台監督とまで言われてるけど面白いやつなんだ。舞台で本物の車が登場する演出があったんだけど、まさかの小栗哲家本人が車で登場してきちゃったり。なんで舞台監督が出てくるんだよな(笑)!? でも彼は「舞台が好きだから」だってさ(笑)。

そういう奔放な人が集まると現場のエネルギーが凄いし、物を作るスピードが早そうです。

それは絶対にそうだよ! なんだったら飛行機だって待たせちゃう。

飛行機を待たせる?

アンドレ・リュウ(指揮者・ヴァイオリニスト)っていうワルツをやっているオランダの音楽家がいるんだけど、彼の札幌公演の時に、使用する銅鑼が割れちゃったらしいんだよ。それが当日に連絡がきて、「羽田空港で待ってるから緊急で持って来てくれないか!?」って言ってくるのさ。その時、銅鑼は川口にある倉庫にあったからなんとかなるかと思って、急いで羽田に向かうんだけど、まさかの大渋滞。

心臓に良くない緊張感です。

そしたら「さっきまで飛行機ずっと待たせてたんだけど、さすがに悪いから出発させた。でも次の便もあるからそれに間に合わせて!」なんて連絡が来た。もちろん間に合ったけど。小澤征爾(指揮者)も、サントリーホール公演の後、すぐにウィーンに戻らなきゃいけないっていうんで、やっぱり飛行機止めてたよ。V.I.Pはそんなもんだ。

今回の取材で、世の中を思い知らされた気がします…。

でも、緊急事態ほど、ブレーンとなる人間がまわりに多いと何とかなる。運も引き寄せるんだ。お互いが助け合えるようになる。

僕から一つ言えるのは『リズムの面白さ』を知って欲しい。

いよいよインタビューも終盤です。これから打楽器の業界に携わる人たちへメッセージをお願いします。

ん〜…、ないなあ(笑)。

…意外です(笑)。

今の子達は、いろいろと行動が抑制されていて、やりたいことがあってもやれないことが多いと思う。日本って何よりも一般的な社会生活が優先されるから、生活と文化がリンクしてないんだ。外国だと、生活水準が低くても、生活と文化がリンクしている国が多い。たとえ飯が食えなくても、それと音楽は別。生活に困窮しながら音楽をやってる人を馬鹿にしたりはしない。同次元で考えていないんだよ。

日本では「稼いでいないアーティスト」に対しては、作品の質云々を抜きにしてリスペクトが少ないと思います。

だから、この世界には入ってこない方がいいんじゃない(笑)? だって気の毒だもん。でも、演奏するだけが音楽ではないし、聴くことも音楽文化の一つだ。だから、音楽は好きでいてほしい。好きな音楽を聴いてほしい。僕から一つ言えるのは『リズムの面白さ』を知って欲しい。楽器は表現方法の一つでしかないから、リズムというものを知って欲しい。

高円寺でも毎年開催されている「阿波踊り」などは、リズムとの触れ合いとしてどうでしょうか?

最近、全国でやってる阿波踊りは、徳島の阿波踊りの真似っ子だよ。どこそこでやってたものの模倣から脱却できずにいるから駄目! 『やっぱり本場はすごい!』って発想でやってて、いつまでも真似してる。だったら辞めちゃえよって思う。結局、日本人の特性として、伝統にこだわりすぎて殻を破れない傾向がすごく強い。

なるほど。厳しいです(笑)。

あのバディ・リッチ(アメリカ合衆国のジャズドラマー・1987年没)が、スコットランドのバグパイプ楽団のドラムのテクニックを見て「自分の手を切り落としてしまいたい」と言ったらしい。だから、テクニックも表現も、やり方の違いがある。どっちが凄いとか、テクニックの勝ち負けじゃなくて、音楽をやらないと!真似っ子じゃ駄目。

そこまで言ってもらえると気持ちいいです。貞岡さんのようにさらけ出してくれると、こちらからも本心を伝えられる気がします。

相手に抑えられると、自分も抑えられちゃうからね。だから、僕はなんでも先に言うようにしてる。まあ、元から弾けちゃってるから、いまさら抑えられないしね。僕を敵みたいに思ってる人もいるけど…、まあ、それでもいいじゃん(笑)!

本日は長いインタビュー誠にありがとうございました。

はいよ(笑)!

◆取材あとがき◆

凄まじい取材でした。取材時間二時間、文字起こし20,000文字、さらにはウェブ連載の企画にもかかわらず『メールとかめんどくさいから、会社まで校正しに来て〜』と指示を頂きまして、プリントアウトした原稿に現場で赤ペンを入れるという、懐かしいながらも素敵な時間を過ごさせて頂きました。

世界を相手にしている人って、思いついたことは即行動しちゃう。良い意味でアナログで、良い意味でそれを楽しんでる。『基本のまま動くことが一流の証』、そんな大切なことを教わった気がしました。

今回のお話、氷山の一角ですからね!? このエネルギーを体感したい人は、是非ともインタビューに出てきた現場にも足を運んでください。お祭りみたいな人がいたら、それがきっと貞岡さんです(笑)。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2015年9月)

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